■楠勝平■



●楠勝平作品集『彩雪に舞う・・・』(青林工藝舎・2001年)

この本は、わずか30歳で夭折した漫画家・楠勝平の3冊目の作品集である。1974年に亡くなり、没後1周年とその3年後に計2冊の単行本が出ていて、この作品集は23年振りの単行本となる。
ただ、3冊目と言っても前の2冊は当然絶版で、復刻もされていない。現在普通に手に入る本はこれだけである(とはいっても限定3000部なのだが…)。
その為、この本が刊行されるまでは、楠勝平という作家の名前は知っているが作品を読んだ事はない、という人が多かったと思う。かく言う自分もその一人だったので、この本の刊行は非常に有難かった。

この作品集には、代表作「おせん」、名作「ゴセの流れ」、後期の長編「ぼろぼろぼろ 自殺へのすすめ」など17作品が収められている。
そして、その収められた作品のほとんどが、非常に強い死の影を帯びたものになっている。

幼少期より心臓の病気で絶えず死を意識していた作者は、ガロのような雑誌はもちろん、大手の商業誌に掲載する作品ですら死を感じさせる作品を描いている。そのリアリティは、本当に死に直面したものにしか絶対に描けないであろう恐ろしいまでの迫力である。

日頃、死について別段深く考えていない僕のような人間は、この本を一読しただけで完全にまいってしまった。
もちろんそれは、死のリアリティにではなく、死を深く描く事によって鮮やか浮き彫られる「生」のリアリティにである。

死と向かい合わせの作者が描くこの漫画群は、その一コマ一コマ、描線の一本一本に凄まじい集中力を感じさせる。
無論、これは作者に才能があったからではあるが、死に背を向けず静かに向かい合う精神力と、職人的才能が合わさって生まれたこの漫画は、眩しいほどの「生の輝き」を放っているのだ。

この漫画を読むと、いわゆる「Memento Mori=死を忘れるな」といった言葉の意味を考えさせられてしまう。
死を感じずに生を体感することは出来ない。死を深く考えない僕は、生の意味を一度でも感じることが出来ていたのだろうか?
若くして亡くなったのは実に不幸であるが、死の意味と生の意味を感じ、それを深く表現する才能に恵まれた楠勝平という作家が、僕は羨ましく思えてしまってならない。

それにしても、これほどの作家の作品が長く復刻されなかったこと、下手をすれば埋もれていってしまったかも知れない、ということに本当に驚かされる。
最近の安易な復刻ブームには辟易するものもあったが、本当に復刻すべきものを再び世に出す行為は非常に価値があると思う。
この作品集の刊行は、その価値ある行為であると間違いなく言える。




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